【怖い話】オオムカデ

怖い話

昔々、近江国の三上山の中に大ムカデの妖怪が住んでいました。そして、その麓の村はその大ムカデに怯えながら日々を暮らしておりました。

その大ムカデはどんな姿をしているのかを見た者はいませんでしたが、村では毎年のように生贄として娘を差し出していました。

中秋の名月が近づく頃、その村の娘のいる家の屋根に白羽の矢が撃ち込まれ、娘を差し出す決まりでした。その家では名月の晩に、娘を白木の棺桶に入れ、山の麓まで運び、生贄として差し出しました。

過去に何度かこの習わしに従わず、娘を差し出さなかった家がありましたが、その年はその村の田んぼや畑はメチャメチャにされてしまい、作物が採れませんでした。

だから、村人たちは泣く泣く、この恐ろしい習わしに従っていました。

ある年の事です、中秋の名月の近づくある夜に、石黒伝右衛門(いしぐろでんえもん)という武士の家の屋根に、その白羽の矢が立ちました。伝右衛門には、十六歳になる美しい娘がいたのです。

伝右衛門は、娘をまるで宝物のようにかわいがっていましたから、伝右衛門はその白羽の矢を見て憤りました。

「どんなことがあっても、大切な娘を渡すものか!!」

しかし、娘を人身御供に差し出さなければ、村が酷い目にあわされます。それを知っている村人達もまた、「今年は伝右衛門のところか」とヒソヒソ話すばかり。同情をしても、代わってくれるような人はいませんでした。それどころか、伝右衛門の一家は村にいることすらできなくなります。

だから、如何に伝右衛門が武士といっても、村の習わしを破ることはできません。

「よし、わしが妖怪を退治してやる」

伝右衛門は誰にも内緒でそう覚悟を決めました。戦って勝てるものとは思っておりませんでしたが、伝右衛門は何としても娘を守るつもりでした。

そして、戦の準備をして名月の夜を待ちました。

さて名月の夜、伝右衛門は娘を家の蔵に隠し、自らが娘に変装し、息のできるように穴の開けられた棺桶の中へもぐりこみました。

棺桶の運び手は、村人達でした。

「あんなかわいい娘さんが、大ムカデの人身御供になるなんて」

何も知らない村人達は、そう言いながら伝右衛門の入った棺おけを担ぎました。

「にしても随分重いな」

「なーに、娘のために色々入れたのじゃろうて」

口々にそんなことを言いながら、棺桶を山の麓まで運ぶと、さっさと村に帰ってしまいました。

一人になった伝右衛門は、棺桶の穴から外の様子を伺っていました。その夜は、月の光が明るく草の葉がそよそよと風に揺れていました。

やがて夜もふけたころ、急に風が激しく吹いたかと思うと、草の葉が大きくうねりだしました。

と、ふいに、その草原に、青白い光が流れ、目をランランと光らせた大ムカデが現れました。何百本とある足が草をなぎたおし、棺おけの方へ近づいてきます。

その恐ろしい姿は、いかに武士の伝右衛門でも、思わず息をのむほどです。

大ムカデは長い身体で棺桶をグルリと囲むと、ゆっくりと頭で棺桶の蓋をひっくり返しました。

その時です、伝右衛門はクルリと一回転して外へとびだすと、すばやく刀を抜き、大ムカデの首めがけて斬りかかりました。

大ムカデの動は一瞬止まりましたが、すぐに頭をふりあげると、伝右衛門にかみつこうとしました。

伝右衛門の刀は大ムカデの首に届く寸前で、大ムカデは頭を大きくうしろへのけぞらせて、その刀を避けました。

伝右衛門は、すばやく刀を横に払って、大ムカデのキバを切り落とすと、おおいかぶさってくる大ムカデの身体を、切って切って切りまくりました。さすがの大ムカデも、これにはたまらず、ついにガクッと頭をおとし、それっきり動かなくなりました。

伝右衛門は大ムカデの死を確かめると、大急ぎで自分の家へ戻り、蔵の扉を開けました。伝右衛門の娘は蔵の中で震えておりましたが、伝右衛門の姿を見て、抱き付きました。

この騒ぎを聞きつけた村人たちが、伝右衛門の家に向かうと、蔵の前で伝右衛門と娘が抱き合って泣いております。そして、伝右衛門の話を聞き、驚いて山の麓に駆けつけました。

しかし、そこには大ムカデの姿はなく、黒々とした血のあとが山の方まで続いていました。

「本当に大ムカデは死んでしまったのだろうか?もし生きていたら、どんなことをされるかわかったものでない」

村人たちは怯えながら、次の年の秋を待ちましたが、名月が近づいても、娘のいる家に白羽の矢はたたず、田んぼや畑も無事でした。

村人たちは大いに喜び、伝右衛門の勇気を改めて褒め称えたといいます。

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